呆気ない幕切れ、そして崩壊

私は泣きながら、りょうたを罵倒し続けました。
しかし、りょうたはひたすら「ごめんな。」を繰り返すだけで、結果は何も変わりませんでした。
私はりょうたと別れることになり、りょうたは出会い系で知り合った浮気相手と結婚をする、その事実だけで、私は十分に打ちのめされました。
その後、どうやって家まで帰ったのかは覚えていません。
気がつくと私は家に着いていて、ベッドに横たわっていました。
何も考えたくないのに、りょうたとの思い出が蘇ってきて、私はひたすらに泣き続けました。
あまりにも呆気ない終わりに、私は納得できませんでしたし、そもそもどうしてこんなことになったのかすら、理解できていませんでした。
それから私は部屋に閉じこもり、廃人のように過ごしていました。
私はベッドに寝っ転がり、毎日涙を流しながらぼーっと天井を眺めて過ごしました。
短大の授業にも行ってないので、数少ない友人からは、心配していると連絡がきていましたが、私はそれに反応しませんでした。
ある日、携帯電話でカレンダーを見たとき、短大は春休みに突入していることに気がつきました。
「あーぁ、テストさぼっちゃった・・・まぁ、単位取るのは来年でも大丈夫か。」
私が部屋に閉じこもって半月近く、両親は私の大失恋に気づいていたようで、何も言いませんでした。
私は、ぼんやりといつまで春休みだったかな、とカレンダーをチェックし、そして、ふと思い立ってブックマークを開くと、例の出会い系サイト、ピュア・ラブへと接続したのです。
事の発端となった出会い系サイトにすがるというのも、なんだかおかしい気もしますが、もしかすると、まだりょうたが登録したままかもしれないと、こんな状態になっても私はまだりょうたと繋がることを期待していたのでした。

聞きたくなかった真実

嫌な沈黙が私達の間を流れます。
その沈黙を破ったのは、私でした。
私「あの、どういうことなのか説明してほしいんだけど。」
その言葉に一瞬りょうたは顔を上げましたが、すぐに再びうつむいてしまいました。
そして、ポツリポツリと話し始めたのですが、その真実は耳を覆いたくなるような内容でした。
私と付き合う前、オフ会で会ったケイコに教えてもらって出会い系サイトを利用し始めたこと、これが初めての浮気でないこと、出会い系さえあれば女の人と簡単に出会えるとわかり、夢中になっていったことなどを話しました。
そして、衝撃的なことを言いました。
り「その、浮気相手の恵梨とは、つかず離れずの関係を保っていたんだけど、一昨日恵梨と会っている時に、彼女倒れたんだ。そんで、次の日朝一で病院に連れて行ったら、妊娠してることがわかって・・・。」
声を震わせ、りょうたは話し続けました。
り「俺、鈴江には申し訳ないことをしたと思う。でも、できた子どもに罪はない。だから、俺責任とって恵梨と結婚することにしたんだ。ごめんな・・・。俺と別れてくれ。」
その言葉を聞いて、私はブチギレし、両手を机にバンっと叩きつけ、りょうたに向かって叫びました。
私「責任とって結婚するって、そっちはそれでいいかもしれないけど、あたしに対してはどう責任取るのよ!?私だってあなたのことを本気で好きだったのよ!!それなのに、そっちが勝手に出会い系に登録して浮気して、それで子どもができたから私とは別れたいですって!!?そんなの納得できるわけないでしょ!!!」
私の声に、他のお客さんが振り返ります。
りょうたは「おい、落ち着けよ!」と私を制止しました。

発狂寸前、女の執念

『欲求不満(´;ω;`) 誰か一夜を共にしませんか??』『可愛い子メールしてきてね!ryoutaXXX@XX.ne.jp』『勉強疲れる。。。誰か僕を癒してくれませんか??年上年下、既婚未婚問わず募集してます☆』・・・どれも見るに耐えない内容でした。
私は、目からボロボロと涙をこぼしながらも、しつこくメッセージをチェックしていきます。
そして、最新のメッセージを見たとたん、私は目の前が真っ暗になりました。
『この出会い系はマジで会えるよ!俺は運命の人に出会ったんだ・・・!結婚する!みんな、これで俺はこのサイトを心おきなく卒業できるよ!』
それは、私が図書館で勉強している間に投稿されたものでした。
一体どういうことなのか・・・なぜ出会い系にはメッセージを残して、私には連絡してこないの?そもそもりょうたは実家に帰ったんじゃなかったの?結婚ってどういうこと?運命の人って誰のこと?
少なくとも、私は自分が当事者でありながら、すでに当事者でないということだけは理解できました。
私は出会い系サイトを閉じると、携帯電話を放り出して泣きじゃくりました。
ご飯ができたと呼びに来た母親に、「どうしたの!?」と背中をさすってもらいましたが、私はただ泣くことしかできませんでした。
かろうじて、母に「一人にして欲しい」と伝えると、彼女は不安げな顔をしながら、「ご飯はラップかけて置いておくから、落ち着いたら食べなさい。」と優しく行って、部屋から出て行きました。
私は、狂ったようにりょうたにメールを送り、ひたすら電話をかけ、彼の応答を待ちました。
しかし、私の執拗な電話&メール攻撃に、りょうたは電話に出るどころか、電源を切ったようでした。
“お掛けになった電話は、現在電波の届かないところにあるか・・・”というメッセージが流れても、私はひたすらりょうたに電話をし続けました。
そして、気がついたら朝になっていました。

りょうたとの対峙

私はふと、自分の携帯電話を見ると、発信履歴は全てりょうたになっており、メールも10分置きに送っていたことがわかりました。
いくら無意識とはいえ、さすがに自分で自分が怖くなり、私は落ち着いて、りょうたにメールしました。
「昨日はごめん。ちゃんと会って話がしたいの。出会い系に登録してたのも全部知ってるから、正直に言って欲しい。その結果、どうなってもりょうたの意見を尊重するから。連絡ください。」
知っているのは出会い系で女の子を引っ掛けていたことだけ、りょうたの意見がどうなろうとも私は別れたくない、そんな気持ちで送ったメールでした。
そして、その日、ぼんやりと携帯電話ばかりいじり、りょうたのメッセージが更新されてないか1時間置きに出会い系にアクセスし、メールの受信があるかもしれないと、ひたすら携帯電話の画面を睨んでいました。
夕方近くになった頃、ようやくりょうたから電話がきました。
私「もしもし・・・。」
り「あぁ。今大丈夫?ちょっと出てこれる?」
私「うん。どこに行けばいい?」
り「お前の家の最寄駅にある喫茶店にいるから、駅に着いたら電話して。」
私「わかった。」
電話を切って、私はもそもそと服を着替え、軽く化粧をすると家を出ました。
駅までは歩いて5分もかかりませんが、それが途方もなく長い道のりに感じられました。
駅について私がりょうたに電話すると、彼は、高架下にある喫茶店まできて欲しいと言いました。
私は、震える足を何とか動かし、指定された喫茶店へと向かいました。
ドアを開けると、奥のテーブル席にりょうたはいました。
店員さんに、待ち合わせだと伝えて、私はりょうたの席へと近づいていきました。
りょうたは、私の姿に気づくとバツ悪そうに目を伏せました。
“どう転んでも、今ここでしか対峙できない”と私は自分を奮い立たせ、りょうたの座る席の向いに黙って腰を下ろしました。

出会い系デビュー!!

しかし、もちろんのこと出会い系からは、りょうたはとっくに退会していました。
「やっぱりね・・・。」私はそのままログアウトしようとしましたが、なぜか思い直して、掲示板を覗いてみることにしたのです。
そこには、いろんな種類の掲示板があり、メル友募集や趣味友募集といったものから、セックスフレンド募集、大人の関係希望などといったものまで、様々なジャンルの掲示板がありました。
私は、そういえばりょうたもこんな掲示板に書き込んでたなぁ、と思い出し、試しに書き込んでみることにしました。
☆真鈴☆『最近彼氏と別れました・・・誰か癒してくれませんか?』
とりあえず、初めてだしこんなもので様子を見てみよう、こうして私の出会い系サイトのデビューは始まりました。
投稿したその日は、誰からも連絡がありませんでした。
掲示板には、次々に新たな書き込みがされていくので、自分の投稿したメッセージは、一日経てばもうすっかり後ろの方へ埋もれてしまいます。
私は、自分にはどうしてメッセージが来ないのかを研究してみることにしました。
インターネットで、出会い系サイトの虎の巻を覗いてみたり、有名人のブログなども参考にしてみたりして、文章の書き方を考え、どうすれば人目に止まるのか、いろいろ考察した結果、プロフィールを女の子らしい内容へと更新しました。
職業は短大生、趣味はお散歩、好きな動物は猫、などと、自分の詳細なプロフィールも、全て設定しなおしたのです。

更なる改造、後に再デビュー

そして、頑張って初の自分撮りに挑戦し、一番可愛く写っているものを、プロフィールの写真として設定しました。
また、自分のアバター(自分のサイト内の分身。いわゆる似顔絵のようなもの)を、極力自分の素顔に似せつつも、可愛らしさも演出できるものに設定し、男性受けするように改造したのです。
こうして、新たなるプロフィールを引っさげた、新生(?)真鈴で、私は再度掲示板への書き込みをしたのでした。
☆真鈴☆『彼氏にこっぴどく振られたぁ!゚(゚ノД`゚)゚ 誰か、真鈴を慰めて欲しいナ・・・写真プロフにあるょ(/ω\) 本当に出会いたい人だけ募集☆メールくれたらこっちからアドレス送りまーす!!』
これが出会い系の再デビューとなり、この書き込みをしてから、約1時間、携帯電話は鳴りっぱなしでした。
なんと、50通以上も男性からメールが来たのです。
私はすっかり舞い上がりました。
人生で、ここまで男性にチヤホヤされたのは初めてだったからです。
あれほど憎み、その存在を嫌悪した出会い系に、ハマり始めた瞬間でした。
たくさんいる男性の中で、私は5人の男性をピックアップし、直接メールのやり取りを始めました。
りょうたと別れたことで、半ば自暴自棄になっていた私は、出会い系で知り合った全く素性のわからない男性と会うことに、何ら抵抗を持ちませんでした。
そうして、ある日、やり取りしている男性の一人、政幸と会うことになりました。
政幸は、22歳の大学生で、私の4つ年上でした。
写メを見せてもらいましたが、知的な印象を受け、少し神経質そうな顔をしているな、と感じました。
政幸は、大学で医学部に所属しており、日々研究に明け暮れていたそうです。
理系の大学ではほとんど出会いがないらしく、ピュア・ラブには友人の勧めで登録したとのことでした。